2010年07月 の記事一覧

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書籍『自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール』

■書籍『自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール』
自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール
The Unwritten Rules of Social Relationships
: Decoding Social Mysteries Through the Unique Perspectives of Autism.
人との関わりにおける暗黙のルール
:自閉症のユニークな視点を通して社会の謎を解読する
原題は直訳気味だとこんな感じ。
個人的には、「暗黙の」や「非言語的な」等の形容詞がある方が購買層に分かりやすいと思う。
また、「才能をいかすため」というより「社会でやっていくため」の方がしっくりくる内容である。

■著者について
テンプル・グランディン/Temple Grandin/日本語版Wikipedia
 アメリカ合衆国の動物学者。
 自閉症を抱えながら社会的な成功を収めた人物として知られている。
 『我、自閉症に生まれて』
 『自閉症の才能開発―自閉症と天才をつなぐ環』
ショーン・バロン/Sean Barron/※日本語版がない為英語版Wikipedia
 "自閉症を克服"したと語るオハイオ州のフリーランスの記者。
 ボランティアにも積極的に参加している。
 『There's a Boy in Here: Emerging from the Bonds of Autism. 』
 『意訳:ここにいた少年―自閉症という枷からの解放』…日本語未刊。母との共著。

■目次
謝辞
読者へ
舞台裏―序にかえて
第1幕 社会的思考の二つの視点
 1私の世界は私のなすこと―テンプル・グランディン
 2社会意識のもうひとつの視点―ショーン・バロン
第2幕 二つの思考・二つの道
 自閉症的思考は社会理解にどう影響するか
幕間
第3幕 人間関係の暗黙のルール10ヵ条
 1ルールは絶対ではない。状況と人によりけりである。
 2大きな目で見れば、すべてのことが等しく重要なわけではない。
 3人は誰でも間違いを犯す。一度の失敗ですべてが台無しになるわけではない。
 (…中略…)
 9「とけ込む」とは、おおよそとけ込んでいるように見えること。
 10自分の行動には責任をとらなければならない。
エピローグ
訳者あとがき
参考文献

■感想
・外観的な読みやすさ
 総頁数440の厚みは一見取っ付きづらいように感じるかもしれないが、余白が広めで文字が小さすぎることもないので、厚みの割にはすらすらと読める。本文に使われている紙は真っ白ではなく黄みがかった色をしているので、目がちかちかしにくく読みやすい。

・大まかに
 自閉症スペクトラム障害を持つ二人の共著である本書は、テンプルの「私」、ショーンの「私」、さらにその二人併せての「私たち(=自閉症スペクトラムを持つ人々)」の記述で構成されている。テーマごとに度々挿入される当事者の具体的なエピソードは、自閉症スペクトラムの人に向けて一般化した意見や提案を補強しているが、一つの課題についてその問題に至るまでの来歴、自閉症的思考、それに対する定型発達の思考、改善法、改善のポイント、周囲の指導的人間に対する説諭、当事者本人への訴えかけ……という風に、とにかくあれもこれもと関連する情報が多い。
 苦労している当事者には本書の大部分は参考になると思うが、自閉症スペクトラムの人を理解する為にこの本を読む人は、気をつけて読み進めないと「ただ厚い本で書いていることは焼き直しばかり」とさえ思うかもしれない。本人であれば該当する経験を思い出すことは容易だが、一つの主観を外側から見ている人々は「(○○という理由で)失敗した」から「○○を□□に改善すればいい」と考える過程で、(○○という理由で)の○○を思いつくのが難しかったり、全く見当違いな答えを当てはめてしまいがちだからだ。
 本文では、『テンプルは語る―』といったように一つひとつのエピソードの主語が明らかなので、物事を一般化しがちな自閉症スペクトラムの人にもそれが彼女・彼ら自身の固有の感じ方であると認識しやすいだろう。また解説やまとめが適宜挟まれるため、固有の問題であると同時に自閉症スペクトラムの特性の問題であることも難なく理解できるはずである。
 社会的不適合の小さい成人である二人の共著の為か、当事者本にありがちな「障害の問題というよりもその人固有の問題(環境や感情)」の記述にのみ終始する結果にはなっていない。また、著者二人以外の当事者や療育関係者の短いエピソードも豊かで、たとえば『モーツァルトとクジラ』の著者であるジェリー・ニューポートのコメントなどが掲載されている。医療サイドの視点がない為か眉唾な論も含まれていたりするが、大半は私論の形式なので、アヤシイ医学博士の断定的な発達障害治療本に比べれば害は少ない気がする。

・誤解?
 気になる点が少し。テンプルのコメントの中で日本が名指しで登場する箇所が数点あるが、彼女の中にはどうやら日本の自閉症スペクトラム障害を取り囲む現状について、実状と異なるイメージが形成されているようだ。
 曰く知能指数の高い自閉症スペクトラム障害の人には感情的なつながりよりも職業的なスキルを訓練することが重視されているとか、大半の高機能ASは不適合を起こさずに職業を持ち、安定して暮らしているだとか。
 後半は彼女が日本のAS関係者との会議に出席した際に、ASの全員が職に就いていたことなどが説明されていたが、アクティブなASが非アクティブなASと比べて安定した生活を送っているのはどちらかというと当然で、非アクティブASの頭数の多さや彼らへの支援の惨状などを考えると、日本の支援が優れているというのは、誤りというか壮大な誤解だと思う。

・楽になったこと
 必ずしも人と感情的なつながりを持たなければならないわけではないと繰り返し語られるので安心した。感情でなくとも、仕事や興味でつながることができればまあ御の字かなと。
 自閉症スペクトラム障害のある人にとっての仕事を持つことの重要性や意味の大きさは、明文化されると一層説得力を増すが、療育を受けられなかった一定の世代以上の発達障害者の就労支援の拡充は、特別支援教育を受けてきた子供たちの就労のフォローアップの後回しとされ、結局途方のない未来の話になってしまうのかもしれないなあ……

■こんなあなたに
 この本はいい意味で単純な、「困っている自分たちみたいな人のためのソーシャルスキル実例集」です。ただし、「自閉症スペクトラム障害のある人」と広く出ていますが、どちらかといえば自立が可能なレベルの知能を持つ中高生~成人向けだと思われます。
 また、小学生や児童の保護者には話者の個々のエピソードよりも、10のルールの末尾にまとめられている活用のポイントの頁の方を、詳しくかつ幼い子供向けの内容としてお勧めします。

※AS向けSSTの感想と併せる予定でしたが、予想通りの長文なので単発記事にしました。

『自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール』@amazon

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